日野自動車が潰れる可能性は?三菱ふそうと経営統合へ

日野自動車が潰れる可能性は?三菱ふそうと経営統合へ
出典:日野自動車株式会社公式サイト(https://www.hino.co.jp/profia/index.html)

本日10月9日は「トラックの日」です。日本の物流を支えるトラック業界で、今大きな注目を集めているのが国内最大手の一角、日野自動車の動向です。**「日野自動車は潰れる可能性があるのか?」**という懸念の声が、多くのユーザーの間で検索されています。

この疑問の背景には、経営の根幹を揺るがした大規模なエンジン不正問題があります。この問題は、多くの車種で生産停止と再開を繰り返す事態を招き、結果として巨額の赤字からの再建という厳しい課題を突きつけました。当然、株価への影響は避けられず、トヨタの親会社責任を問う声も上がっています。

しかし、水面下では次の一手が打たれていました。それが、ライバルである三菱ふそうとの経営統合の真相です。この統合により新会社アーチオンが誕生し、親会社であるトヨタとダイムラーとの協業体制がスタートします。さらに、生産拠点の集約といった大改革も断行し、まさに会社の存亡をかけた今後の生き残り戦略が動き出しているのです。

この記事では、日野自動車が抱える問題点から、三菱ふそうとの経営統合による再建策の全貌、そして将来性まで、専門的な視点から徹底的に解説します。

この記事でわかること

  • 日野自動車が倒産すると噂される根本的な原因
  • 会社の経営状況を示す具体的な財務内容
  • 三菱ふそうとの経営統合や新会社設立の全体像
  • 今後の事業継続と成長に向けた具体的な戦略
目次

日野自動車が潰れる可能性は?現状と問題点

  • 発端となったエンジン不正問題
  • 相次いだ生産停止と再開の状況
  • 深刻な赤字からの再建計画
  • トヨタの親会社責任も問われる
  • 一連の動向が与える株価への影響

発端となったエンジン不正問題

日野自動車が直面する経営危機の最大の要因は、長年にわたって行われていたエンジンの排出ガスや燃費に関するデータ不正問題です。この問題が明るみに出たことで、会社の信頼は大きく揺らぎ、「潰れるのではないか」という憶測が広がる直接的な引き金となりました。

20年近くに及んだ組織的な不正

特別調査委員会の報告によれば、この不正行為は少なくとも2003年から約20年間にわたって行われていたことが判明しています。これは一部の従業員による偶発的なものではなく、長期間にわたり組織的に続けられてきた根深い問題でした。

現行エンジン14機種のうち12機種で不正が見つかるなど、その範囲は極めて広く、会社の品質管理体制そのものが問われる事態となったのです。この事実は、日野自動車のブランドイメージを著しく傷つけました。

史上初となった型式指定の取り消し

不正の発覚を受け、国土交通省は2022年3月、日野自動車に対して厳しい行政処分を下しました。主力製品である大型トラック「プロフィア」、中型トラック「レンジャー」、大型観光バス「セレガ」などに搭載されていた4種類のエンジンの型式指定を取り消したのです。

道路運送車両法に基づく型式指定の取り消しは、日本の自動車業界において史上初の出来事であり、問題の深刻さを物語っています。これにより、日野自動車は国内で販売する製品の大部分を一時的に失うという、前代未聞の事態に追い込まれました。

相次いだ生産停止と再開の状況

前述の通り、エンジン不正問題とそれに伴う型式指定の取り消しは、日野自動車の生産活動に深刻な影響を及ぼしました。多くの工場で生産ラインを止めざるを得なくなり、国内で販売できる車両がほぼ無くなるという異常事態に陥ったのです。

主力である大型・中型トラックの出荷が停止したことで、売上の大部分が消失。この影響は甚大で、多くの顧客や取引先に多大な迷惑をかける結果となりました。

その後、国土交通省による審査を経て、一部のエンジンについては基準への適合が確認され、順次出荷が再開されています。しかし、2025年10月現在も一部のエンジンを搭載した車種は生産停止が続いており、完全な正常化には至っていません。この生産の混乱は、会社の業績に暗い影を落とし続けています。

深刻な赤字からの再建計画

生産停止は、日野自動車の財務状況を急速に悪化させました。不正問題が発覚した2022年3月期の連結決算では、最終損益が約847億円の赤字に転落。これは過去最大の赤字額であり、会社の経営体力を大きく削ぐ結果となりました。

この巨額の赤字は、認証不正に関連するリコール費用や生産停止による売上減少などが主な原因です。一度失った信頼と市場シェアを回復するのは容易ではなく、黒字化への道のりは決して平坦ではありません。

このような厳しい財務状況が、「日野自動車は本当に持ちこたえられるのか」という倒産の懸念を現実的なものとして市場に印象付けました。したがって、現在進行中の再建計画が、まさに会社の未来を左右する鍵となります。

トヨタの親会社責任も問われる

日野自動車は、トヨタ自動車が株式の50.1%を保有する連結子会社です(統合前時点)。そのため、一連の不正問題においては、親会社であるトヨタの監督責任を問う声も少なくありません。

問題発覚後、トヨタ、いすゞ、スズキ、ダイハツと共に設立した商用車の協業プロジェクト「CJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)」から、日野自動車は除名処分を受けています。これは、パートナーシップの根幹である信頼関係が損なわれたことによる当然の措置と言えるでしょう。

ただ、トヨタは日野自動車を見放したわけではありません。後述する三菱ふそうとの経営統合において、トヨタはダイムラートラックと共に重要な役割を担っており、親会社として再建を支える姿勢を見せています。このトヨタの支援体制が、日野自動車の存続可能性を考える上で極めて大切なポイントです。

一連の動向が与える株価への影響

企業の健全性を示すバロメーターの一つが株価です。日野自動車の一連の不祥事と業績悪化は、株式市場においても厳しい評価を受けました。

不正問題が公表された直後から、同社の株価は急落。市場の信頼を失い、多くの投資家が離れる結果となりました。その後も、生産停止の拡大や巨額の赤字決算が報じられるたびに、株価は下落を続け、会社の厳しい状況を如実に反映しています。

一方で、三菱ふそうとの経営統合が発表された際には、将来への期待感から株価が一時的に上昇する場面も見られました。これは、市場がこの再建策をポジティブに評価している証左とも考えられます。今後の株価の動向は、再建計画が着実に進むかどうかに大きく左右されるでしょう。

再建策で日野自動車が潰れる可能性を回避へ

  • 三菱ふそうとの経営統合の真相
  • 新会社アーチオンの設立
  • 独ダイムラーとの協業の狙い
  • 国内生産拠点の集約で合理化
  • 今後の生き残り戦略を占う

三菱ふそうとの経営統合の真相

絶体絶命とも思える状況の中、日野自動車が生き残りをかけて下した最大の決断が、長年のライバルであった三菱ふそうトラック・バスとの経営統合です。2023年5月30日、両社およびそれぞれの親会社であるトヨタ自動車、ダイムラートラックを加えた4社間で、統合に向けた基本合意書が締結されました。

この統合は、単なる業務提携ではありません。両社が対等な立場で力を合わせ、日本の商用車事業の競争力を強化し、CASE(ケース)と呼ばれる次世代技術の開発を加速させることを目的としています。

具体的には、日野自動車と三菱ふそうが新しく設立される持株会社(ホールディングカンパニー)の100%子会社となる形で統合が実施されます。この大規模な再編は、不正問題で失墜した信頼を回復し、厳しい経営状況を打開するための最も強力な一手であり、日野自動車が潰れる可能性を回避するための核心的な戦略と言えます。

新会社アーチオンの設立

経営統合によって誕生する新しい持株会社の社名は**「ARCHION(アーチオン)株式会社」**に決定しました。この社名は、弓型の構造物を意味する「ARCH(アーチ)」と、遠い過去から未来へ続く様子を意味する「EON(イオン)」を組み合わせた造語です。ここには、三菱ふそうと日野をつなぐ強固な絆や、輸送の未来を創造していくという強い意志が込められています。

事業開始は2026年4月1日を予定しており、東京証券取引所プライム市場への上場を目指すとしています。この新会社のもとで、日野と三菱ふそうの両ブランドは存続し、それぞれの強みを活かしながら事業を展開していく計画です。

新会社の経営体制や事業計画の詳細は、以下の表にまとめました。

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項目内容
新社名ARCHION(アーチオン)株式会社
本社所在地東京都品川区
事業開始予定2026年4月1日
代表取締役CEOカール・デッペン(現三菱ふそうCEO)
取締役CTO小木曽 聡(現日野自動車社長)
代表取締役CFOヘタル・ラリギ(現三菱ふそうCFO)
主要株主ダイムラートラック、トヨタ自動車がそれぞれ同率で出資
上場市場東京証券取引所プライム市場を目指す

独ダイムラーとの協業の狙い

今回の経営統合を理解する上で欠かせないのが、世界的な商用車メーカーであるドイツのダイムラートラックの存在です。ダイムラートラックは三菱ふそうの親会社であり、新会社アーチオンにおいてはトヨタ自動車と並ぶ大株主となります。

この協業の最大の狙いは、CASE技術(コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化)の開発を加速させることにあります。特に、脱炭素社会の実現に向けて重要となる電動化や水素技術の領域では、1社単独での莫大な開発投資は困難です。

そこで、日野と三菱ふそう、そして親会社であるトヨタとダイムラートラックの4社が持つ技術や資本、販売網といったリソースを結集することで、世界トップレベルの次世代商用車を開発し、市場をリードすることを目指します。この強力なグローバル連携は、日野自動車単独では描けなかった未来への道筋であり、事業継続に向けた大きな推進力となります。

国内生産拠点の集約で合理化

新会社アーチオンは、CASE技術への投資原資を生み出すため、事業の効率化にも積極的に取り組みます。その柱となるのが、国内生産拠点の再編と集約です。

現在、日野と三菱ふそうが国内に持つトラックの生産拠点は合計5ヵ所ですが、これを2028年末までに3ヵ所に集約する計画が発表されました。

新たな3つの生産拠点

  • 三菱ふそう 川崎製作所(神奈川県川崎市)
  • 日野自動車 古河工場(茨城県古河市)
  • 日野自動車 新田工場(群馬県太田市)

この再編により、三菱ふそうの中津工場は閉鎖・集約され、日野の羽村工場はトヨタへ移管されます。重複する開発、調達、生産、物流などの機能を統合・最適化することで、大幅なコスト削減と生産性の向上を図る狙いです。こうした痛みを伴う改革も、会社を再生させ、将来の成長軌道に乗せるためには不可欠なプロセスと言えるでしょう。

今後の生き残り戦略を占う

経営統合後のアーチオングループが目指すのは、単なる規模の拡大ではありません。お互いの強みを掛け合わせる**「統合プラットフォーム戦略」**を推進し、製品そのものの競争力を高めることが、今後の生き残り戦略の鍵となります。

この戦略では、大型、中型、小型トラックの基盤となる車台(プラットフォーム)を段階的に統合していきます。これにより、開発の重複投資をなくし、部品の共通化によるコスト削減を実現。より良い商品を、より早く市場に投入できる体制を構築します。

また、開発・生産の効率化で生み出された経営資源は、前述の通りCASE技術、特に世界的に需要が高まる電動化や水素燃料電池システムの開発に重点的に投資されます。日野と三菱ふそうがそれぞれのブランドで切磋琢磨しつつ、基盤技術は共有して開発を加速させる。この両輪で、変化の激しい商用車市場での生き残りを図っていく方針です。

まとめ:日野自動車が潰れる可能性を総括

最後に、この記事で解説してきた内容を基に、「日野自動車が潰れる可能性」について結論をまとめます。

  • 日野自動車が直ちに倒産する可能性は極めて低い
  • 倒産の懸念は2003年から続く大規模なエンジン不正問題が発端
  • 不正により史上初の型式指定取り消し処分を受けた
  • 多くの車種が出荷停止となり2022年3月期は約847億円の巨額赤字を計上
  • 親会社トヨタの監督責任も問われCJPTから除名処分となった
  • 株価は不正発覚後に大きく下落し市場の信頼を失った
  • 最大の再建策としてライバルの三菱ふそうとの経営統合を決定
  • 2026年4月に新持株会社ARCHION(アーチオン)が事業を開始予定
  • アーチオンは日野と三菱ふそうを100%子会社とする
  • 親会社のトヨタと独ダイムラートラックがアーチオンに同率出資し支援
  • 4社の技術力を結集しCASE技術、特に電動化や水素開発を加速
  • 国内5カ所のトラック生産拠点を3カ所に集約し経営を効率化
  • トラックの車台を共通化する「統合プラットフォーム戦略」を推進
  • 日野と三菱ふそうの両ブランドは統合後も存続する
  • 厳しい状況は続くものの、大規模な再建策により事業継続の道筋は示されている
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