「国勢調査員をお願いできませんか?」
町内会や自治体から突然こう依頼され、「国勢調査員はやりたくない…」と悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実際に国勢調査員をやってみた人の話を聞くと、想像以上に大変そうに感じますよね。具体的な実働時間に見合った報酬がもらえるのか、また報酬はいつ支払われるのか、さらに税金や確定申告のことも気になるところです。
本業がある方にとっては、勤務先の副業禁止規定に触れないかも心配の種でしょう。もし引き受けられない場合、角が立たないスマートな断り方はあるのでしょうか。断ると罰則があるのかという不安もよぎります。
この記事では、そうした疑問や不安を解消するため、国勢調査員の仕事の実態から報酬、税金の問題、そして賢い断り方まで、あらゆる情報を網羅的に解説します。この記事を最後まで読めば、あなたがどうすべきか、きっと明確になるはずです。
この記事でわかること
- 国勢調査員の具体的な仕事内容とその大変さ
- 報酬額の目安や税金、確定申告に関する詳細
- 副業禁止規定との関係や兼業の可否
- 調査員を断る方法と断った場合の法的な扱い
国勢調査員はやりたくない?仕事内容と断り方

- 国勢調査員は想像以上に大変
- 調査員をやってみた人の声
- 国勢調査員の実働時間は?
- 調査員の断り方と相談窓口
- 拒否した場合の罰則について
国勢調査員は想像以上に大変
国勢調査員の仕事は、調査票をポストに入れるだけといった単純なものではありません。軽い気持ちで引き受けると後悔する可能性があるほど、その業務は多岐にわたり、精神的・肉体的な負担が大きいのが実情です。
まず、調査員に任命されると、担当する調査区の全世帯を正確に把握するところから始まります。地図を片手に一軒一軒の居住実態を確認し、世帯主の名前や世帯人数を聞き取る必要がありますが、この最初の段階で既につまずくケースは少なくありません。
アナログな作業と非効率性
驚くべきことに、令和の時代においても、国勢調査の現場ではアナログな作業が多く残っています。例えば、担当する80世帯分の情報を管理するための記録用紙は、調査員自身が手書きで作成する必要があります。誰に調査票を渡し、誰がオンラインで回答したかといった進捗も、役所から紙で渡される情報と手元のリストを照合して管理しなければなりません。このような非効率な作業が、調査員の負担をさらに増大させています。
肉体的・精神的な負担
調査期間中は、住民が在宅している可能性が高い平日の夜間や休日に何度も訪問を繰り返します。特に、オートロック付きのマンションでは住民と接触することすら難しく、不在がちな世帯への再訪問は心身ともに疲弊します。
2025年の夏も厳しい暑さが続き、炎天下での訪問活動は熱中症のリスクと隣り合わせです。過去には、訪問先で調査員が倒れて亡くなるという痛ましい事故も発生しています。
さらに、精神的なストレスも深刻です。すべての人が調査に協力的とは限りません。「なぜ個人情報を教えなければならないのか」と強い口調で問い詰められたり、不審者扱いされたりすることもあります。インターホン越しに門前払いを食らうことは日常茶飯事で、時には犬に吠えられたり、厳しい言葉を浴びせられたりすることで、メンタルが擦り減ってしまう調査員は後を絶ちません。
このように、国勢調査員の仕事は、責任の重さ、非効率な作業、そして住民とのコミュニケーションの難しさという複数の要因が絡み合い、「想像以上に大変」と感じられるのです。
調査員をやってみた人の声
「もう二度とやりたくない」というのが、多くの経験者が口を揃えて語る本音です。実際に国勢調査員をやってみた人々の声を集めると、その過酷さがより一層浮き彫りになります。
報道やインターネット上の体験談では、「夜に訪問すれば怪しまれ、朝早く行けば怒られる」「回答を拒否する世帯への対応で心労が重なった」といった苦労話が数多く見られます。国のために重要な調査であると頭では理解していても、回収率という目に見える目標に対するプレッシャーと、住民からの非協力的な態度との板挟みになり、精神的に追い詰められてしまうのです。
近年の社会変化がもたらす困難
特に近年は、プライバシー保護に対する意識の高まりが、調査活動を一層困難にしています。見ず知らずの調査員に家族構成や職業を話すことに抵抗を感じる人が増え、調査の趣旨を丁寧に説明しても、なかなか理解を得られないケースが増加しています。
また、日本に住む外国人居住者の増加も、新たな課題を生んでいます。言葉が通じない世帯への説明は困難を極め、スマートフォンの翻訳アプリを使っても、正確に意図が伝わらないことも少なくありません。文化や習慣の違いから思わぬトラブルに発展するリスクもあり、中には身の危険を感じたという経験を持つ調査員もいます。市役所に相談しても「気をつけてください」としか言われず、十分なサポート体制が整っているとは言えないのが現状です。
これらのリアルな声は、国勢調査員という仕事が、単なる「お役所のお手伝い」という軽いイメージとはかけ離れた、タフな交渉力と精神的な強さを要求される役割であることを示しています。
国勢調査員の実働時間は?
国勢調査員の報酬は一見すると悪くない金額に見えるかもしれませんが、その実働時間を考慮すると、時給換算では決して割りの良い仕事とは言えないのが実情です。
公式な拘束時間は定められておらず、担当する調査区の地理的条件(坂道が多い、家が点在しているなど)や、住民の協力度合いによって、必要な時間は大きく変動します。
拘束時間の内訳
業務は、調査票の配布と回収だけではありません。大まかな流れは以下のようになります。
- 市区町村での説明会参加(複数回): 調査の進め方や注意点に関する研修を受けます。平日に開催されることがほとんどです。
- 担当調査区の確認・地図作成: 事前に担当エリアを巡回し、建物の位置や世帯の状況を把握します。
- 調査書類の配布: 9月下旬から、各世帯を訪問し、オンライン回答用のIDや調査票を配布します。不在の場合は何度も訪問が必要です。
- 調査票の回収: 10月上旬、オンラインで未回答の世帯を再度訪問し、記入済みの調査票を回収します。
- 書類の整理・提出: 回収した調査票を点検・整理し、市区町村の担当窓口に提出します。
ある経験者の話では、市役所に計5回通う必要があり、それ以外にも配布・回収・書類整理などで最低でも丸5日間はかかったとのことです。これはあくまでスムーズに進んだ場合の話であり、不在世帯が多かったり、回答を渋る住民の説得に時間がかかったりすれば、実働時間はあっという間に膨れ上がります。
平日の日中は不在の世帯が多いため、活動は自然と平日の夜間や土日に集中します。プライベートな時間を大幅に割かなければならず、本業を持つ人にとってはかなりの負担となります。この「見えない拘束時間」の長さが、報酬額と見合わないと感じる大きな理由の一つです。
調査員の断り方と相談窓口
国勢調査員の依頼を受けてしまったものの、どうしても引き受けるのが難しい場合、断ることは可能です。調査員は推薦や公募に基づいて候補者が選ばれますが、最終的に引き受けるかどうかは本人の意思に委ねられており、強制されるものではありません。
断る際のポイントと伝え方
重要なのは、できるだけ早く、誠実に断りの意思を伝えることです。曖昧な返事をしたり、連絡を無視したりするのは、かえって迷惑をかけることになります。
断る際は、まず誰から依頼されたかを確認しましょう。
- 町内会長や自治会長から依頼された場合: まずはその方に直接、引き受けられない旨を伝えます。
- 市区町村の役所から直接連絡があった場合: 担当課(例:総務課、企画課など)に連絡します。
伝える理由としては、「仕事が多忙で、調査活動に十分な時間を確保できない」「家族の介護があり、家を空けるのが難しい」「健康上の不安がある」など、具体的な事情を正直に話すのが最も角が立たない方法です。無理に引き受けて、途中で責任を放棄してしまうことのほうが、よほど大きな問題となります。
説明会参加後でも辞退は可能か?
説明会に参加したからといって、必ずしも引き受けなければならないわけではありません。説明を聞いた上で、自分には務まらないと判断した場合でも辞退は可能です。その際も、速やかに市区町村の担当課に連絡し、辞退の意思を明確に伝えましょう。
代わりの調査員を探す時間も必要になるため、引き受けられないと判断した時点で、できるだけ早く連絡を入れるのが社会人としてのマナーです。
拒否した場合の罰則について
国勢調査に関して「罰則」という言葉を聞くと、不安に感じるかもしれません。ここで明確にしておくべき重要な点は、「調査員になることを断る」行為と、「調査に回答することを拒否する」行為は全く別物であるということです。
結論から言うと、国勢調査員になるよう依頼された際に、それを断ったとしても罰則は一切ありません。
調査員になることは義務ではなく、あくまで協力依頼です。したがって、前述のような正当な理由をもって断ることに対して、法的なペナルティが科されることはありませんので、ご安心ください。
罰則が適用されるのは「回答義務」の違反
一方で、統計法によって罰則が定められているのは、**調査対象者(日本に住むすべての人と世帯)**が調査への報告(回答)を拒んだり、虚偽の回答をしたりした場合です。
統計法 第六十一条 第十三条の規定に違反して、基幹統計調査の報告を拒み、又は虚偽の報告をした者は、五十万円以下の罰金に処する。
この条文は、国勢調査の回答者に向けられたものです。国勢調査から得られるデータは、国の政策や地域のまちづくりに不可欠な基礎資料となるため、国民には正確な報告を行う義務が課せられています。
ただし、実際にこの罰則が適用されて罰金刑を受けたという事例は、これまでほとんど報告されていません。これは、国や自治体が罰則の適用よりも、調査の重要性を国民に理解してもらい、協力を得ながら調査を進めることを重視しているためです。
要するに、「調査員になるのは断れるが、調査に回答するのは義務」と覚えておけば間違いありません。
国勢調査員をやりたくない人のための報酬と働き方

- 国勢調査員の報酬はいくら?
- 報酬はいつもらえるのか
- 報酬にかかる税金はどうなる?
- 報酬の確定申告は必要か
- 副業禁止でも調査員はできる?
国勢調査員の報酬はいくら?
国勢調査員の報酬は、担当する調査区の数や世帯数によって変動します。一概にいくらとは言えませんが、一般的には1調査区(約50〜80世帯)あたり4万円前後、2調査区を担当した場合は7万円前後が目安とされています。
ある事例では、約80世帯を担当して報酬は6万円だったとのことです。この金額を多いと見るか、少ないと見るかは人それぞれですが、前述の通り、その過酷な業務内容や長い実働時間を考慮すると、「割に合わない」「安い」と感じる経験者が多いのが実情です。
報酬額は、調査活動の対価としてだけでなく、調査に必要な通信費や交通費などの経費も含まれていると考えるのが一般的です。
担当調査区数 | 担当世帯数(目安) | 報酬額(目安) |
1調査区 | 50~80世帯 | 約40,000円 |
2調査区 | 100~160世帯 | 約70,000円 |
※上記はあくまで一般的な目安であり、自治体や調査区の状況によって金額は異なります。
報酬は魅力的に映るかもしれませんが、時給換算すると最低賃金を下回る可能性も十分に考えられます。金額だけでなく、これから費やすであろう時間や労力とを天秤にかけ、慎重に判断することが大切です。
報酬はいつもらえるのか
国勢調査員の報酬は、調査活動がすべて完了した後に支払われるため、すぐには受け取れません。
具体的な支払い時期は自治体によって異なりますが、一般的には調査が終了する10月以降、事務手続きを経て12月から翌年の1月頃に指定した口座へ振り込まれるケースが多いようです。
つまり、9月から始まった一連の活動の対価を受け取れるのは、数ヶ月先になるということを念頭に置く必要があります。活動期間中に発生する交通費などの経費は、一旦自分で立て替えることになります。
正確な支払い時期については、調査員の説明会で案内があるか、市区町村の担当課に問い合わせることで確認できます。すぐに収入が必要な場合には、このタイムラグを考慮しておくことが不可欠です。
報酬にかかる税金はどうなる?
国勢調査員として受け取る報酬は、**「給与所得」**として扱われ、所得税の課税対象となります。これは、国勢調査員が総務大臣によって任命される「非常勤の国家公務員」という身分であるためです。
したがって、報酬が支払われる際には、あらかじめ所得税が源泉徴収された(天引きされた)後の金額が振り込まれます。そして、調査活動が終了し報酬が確定した後、市区町村から**「源泉徴収票」**が発行されます。この源泉徴収票は、後述する確定申告の際に必要となる重要な書類ですので、必ず保管しておきましょう。
なお、この報酬は給与所得ではありますが、一時的なものであるため、会社員の方の社会保険料などに直接影響することは基本的にありません。ただし、配偶者の扶養に入っている方が高額の報酬を受け取った場合などは、扶養の条件に影響する可能性もゼロではないため、注意が必要です。
報酬の確定申告は必要か
国勢調査員の報酬に関して、確定申告が必要かどうかは、あなたの現在の職業や他の所得の状況によって異なります。報酬を受け取った人すべてが確定申告をしなければならないわけではありません。
会社員(給与所得者)の場合
本業の会社で年末調整を受けている給与所得者の場合、国勢調査員の報酬を含む、給与以外の所得(副業など)の合計が年間20万円を超える場合に確定申告が必要になります。国勢調査員の報酬だけで20万円を超えることは稀ですが、他に副業などをしている場合は、その所得と合算して判断する必要があります。
専業主婦(主夫)や年金受給者の場合
他に所得がない、あるいは少ない場合は、国勢調査員の報酬額によって確定申告が必要になるかが決まります。給与所得控除などの各種控除を差し引いた結果、納めるべき税金が発生する場合は申告が必要です。また、配偶者控除や扶養控除を受けている方は、報酬額が一定を超えると控除の対象から外れてしまう可能性があるため、特に注意が求められます。
個人事業主の場合
個人事業主の方は、事業所得など他の所得と国勢調査員の報酬(給与所得)を合算して確定申告を行う必要があります。
確定申告は、翌年の2月16日から3月15日までの期間に行います。手続きが複雑で分からない場合は、お住まいの地域を管轄する税務署に問い合わせるか、税理士に相談することをおすすめします。
副業禁止でも調査員はできる?
勤務先から副業を禁止されている会社員にとって、国勢調査員の依頼は悩ましい問題です。しかし、結論から言うと、多くの場合、国勢調査員の活動は就業規則で禁止されている「副業」には該当しないと考えられています。
その理由は、国勢調査員が民間企業との契約で働くアルバイトやパートとは異なり、国の重要な統計調査に従事するために任命される**「非常勤の国家公務員」**という特別な身分であるためです。公共性が非常に高く、社会貢献活動の一環と見なされることが一般的です。
ただし、勤務先の確認は必須
法律上の解釈としては副業にあたらないとされていますが、トラブルを避けるためには、必ず事前に勤務先の上司や人事部に相談し、許可を得ることが絶対に必要です。
会社によっては、就業規則で「会社の許可なく他の業務に従事すること」を包括的に禁止している場合があります。その場合、事情を説明せずに活動を行うと、規則違反と見なされ、最悪の場合は懲戒処分の対象となるリスクも考えられます。
相談する際は、「国の重要な調査であり、非常勤の公務員として任命されるものであること」「営利目的の副業とは性質が異なること」を丁寧に説明すれば、ほとんどの企業で理解を得られるでしょう。許可を得ることで、安心して調査活動に専念できます。自己判断で進めることだけは絶対に避けてください。
国勢調査員やりたくない人が知るべきことまとめ
ここまで、国勢調査員をやりたくないと感じる理由や、それにまつわる様々な疑問について解説してきました。最後に、あなたが後悔しない判断を下すための重要なポイントをまとめます。
- 国勢調査員の仕事は調査票の配布・回収以外にも多岐にわたる
- 全世帯の居住実態の確認や手書きでの進捗管理などアナログな作業が多い
- 不在世帯への再訪問が多く、精神的・肉体的な負担が大きい
- 経験者からは「想像以上に大変」「二度とやりたくない」という声が多数挙がっている
- 実働時間は担当区域や住民の協力度で大きく変動し、拘束時間が長くなりがち
- 平日の夜間や土日の活動が中心となり、プライベートな時間が削られる
- 依頼を断ること自体に罰則は一切ない
- 断る際は、依頼主(町内会や市区町村)へ早めに誠実に伝えることが重要
- 罰則の対象となるのは、調査員ではなく「調査に回答しない」住民側
- 報酬は担当世帯数に応じて支払われ、1調査区あたり4万円前後が目安
- 報酬の支払いは調査完了から数ヶ月後(12月~翌年1月頃)になる
- 報酬は「給与所得」として扱われ、所得税が源泉徴収される
- 本業がある会社員は、他の副業所得と合わせて年間20万円を超えると確定申告が必要
- 調査員の活動は法律上「副業」にはあたらないと解釈されることが多い
- 副業禁止の会社員でも、必ず事前に勤務先の許可を得ることが必須